『 紅葉の魔力 』



 山が色付く季節になると、胸がざわついて落ち着かなくなる。赤く染まった紅葉が、妙にあなたを引き立てるからだろうか。何にしても、いつもは小汚いオッサンが、儚げでキレイに見えるなんて、相当いかれてる。
 僕の数歩先を歩いていた芭蕉さんの背中を見ながら、小さく溜め息を吐いた。
「芭蕉さん。」
「ん?何、曽良くん。」
「……抱きしめてもいいですか?」
そう言うと、芭蕉さんは変な顔をして、首を傾げた。
「どうしたの?君らしくない。」
「嫌ならいいんです。」
芭蕉さんの隣りを通り抜けようとしたとき、不意に腕を引っ張られる。
「嫌じゃないよ。」
少し焦ったようにそう言った芭蕉さんは、小声で「嫌なわけないじゃない。」と繰り返した。
 微かに震える師匠の体を優しく抱きしめて、そっと額に口付ける。……やっぱりオッサンの臭いがした。それでも、腕の中に収まる温もりを大切に思うのは、紅葉の魔力なのだろうか。何でもいいが、この瞬間、僕は確かに幸せだった。



END

……短っ!?



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